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第72回 「王者のゴルフ」
2012年3月27日更新

ウッズが復活した。09年BMW選手権以来、2年半ぶりに米ツアーで勝った。得意のベイヒルで開催されたアーノルド・パーマー招待。2位マクダウエルに1打差をつけて首位で迎えた最終日、70をマークして5打差の完勝。「とても、うれしい」。不倫騒動後、初の米ツアー制覇にホッとしたような笑みがこぼれた。

王者のゴルフだった。前半は攻めて4バーディーを奪ってラッシュをかけ、2010年全米オープン王者マクダウエルとの差を4打に広げた。すると、そこからは一転、逃げ切り態勢に入る。無理をしない。手前から攻め、ピンを狙わずグリーン中央に目標を取った。

「とてもタフな1日だった。コース条件も、相手も厳しかった。でも、今日のような日はみんな多くのバーディーは取れない。それを利用しなければならないと感じたんだ」。

ゴルフは自分との戦い。同じ組で回る人の1打に一喜一憂していては、自分のプレーを貫くことができず、リズムも崩れやすい。しかし、優勝争いの土壇場では相手を見て戦うことも求められる。相手の調子、ストローク差によって、コースの攻め方を変えた方が、勝つ確率が上がるからだ。

簡単に言えば「大量リードしている最終日の終盤は、無理して攻める必要がない」ということ。だが、これが難しい。グリーン中央を狙うにしても正確なショットが必要だし、「逃げ切りたい」という意思がある中で目の前の1打に集中する”心の強さ”も求められるからだ。

今年1月の米ツアー、ファーマーズ・インシュランスオープンで、その難しさを象徴するシーンがあった。最終日、3打リードして最終18番パー5に来たのはツアー未勝利のカイル・スタンリーだった。第1打は左ラフ。距離的には2オンも可能だったが、グリーン手前の池を避けて、刻む判断を下した。しかし、100 ヤード 足らずの第3打がバックスピンでグリーンの傾斜を転がり、池へ…。第5打もグリーン奥へと外し、アプローチを1メートルほどに寄せたものの、ダブルボギーパットを入れることができなかった。安全策を取ったはずが、失敗に終わり、痛恨の「8」。結局、スタンリーはスネデカーとのプレーオフに敗れて勝利を逃した。

「ウッズとスタンリーでは格が違う」と、思う人もいるかもしれない。しかし、同じ人間。考えることはそれほど変わらない。だとすれば、成功か失敗かを最後に分けるのは、やはり「雑念を捨てる集中力と確かな技術」だ。

アーノルド・パーマー招待の最終日、ウッズは15番でピンチを迎えていた。4メートルほどのパーパットが残っていた。マクダウエルとの差は4打あったが、勝負所と見極めて、集中力を高めた。「今年のツアーでは何度か逆転劇を見てきた。残り3ホールで3打差なら何が起こるか分からない。だけど、4打差ならちょっと違う」。そして、その重要なパットを見事沈めた。

目の当たりにしたマクダウエルは続く16番でバーディーチャンスを外し、17番でもボギーをたたき万事休す。一方、ウッズは17番でも、18番でも右端のピンを狙わず、正確にグリーン真ん中を捕らえて、逃げ切った。対戦相手と試合状況を把握、分析しながら、勝つためにより確実な手を打つ…。その姿に、強いウッズが戻ってきたと感じずにはいられなかった。

不倫騒動から復活を目指していた過程では、左アキレス腱痛にも何度か悩まされた。勝てないよりも辛かったという。「ケガをすれば、練習ができないんだからね。練習ができなければ、スイング改造もできないし、パットの練習もできない。去年は厳しい1年だった」。

しかし、傷が癒えた昨年11月オーストラリア・オープンで3位に入り「いい兆しが見えた」。今年も何度か優勝争いに絡んで、徐々に手応えもつかんでいた。「いい調整ができて、忍耐強く練習を続けられたから、ここ(優勝会見の席)にいるんだ」。尾崎将司が「心技体じゃない。重要な順番は体技心だ」と話していたが、やはりアスリートにとっては体が資本。ウッズも体調が良くなったからこそ、本来の技と、強い心もよみがえった。

楽しみになってきたのは、4月5日から始まるマスターズ。米ツアー通算勝利数歴代2位73勝のジャック・ニクラウスに並ぶまで、あと1勝に迫ったことに「いいことだね」と言ったあと、ウッズは大一番へ力を込めた。

「いいショットを打てたのは、オーガスタに向けてとてもいいサインだ。ジャックと並ぶより、もう1つグリーンジャケットを得ることを楽しみにしている。今年は4大メジャーにピークを合わせたい」。

世界ランク1位を争うルーク・ドナルドや、ロリー・マキロイ、特別招待枠で4年連続出場が決まった石川遼に、昨年のローアマ松山英樹…。大舞台には役者がそろうが、ゴルフ界の”センター”に最もふさわしいのはタイガー・ウッズ。寝不足になる日が、待ち遠しくなってきた。

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著者プロフィール

木村有三(きむら・ゆうぞう)
1974年12月28日、大阪市生まれ。同大ゴルフ部時代は、関西学生ゴルフ連盟競技委員長を務める。98年日刊スポーツ新聞社入社。02年プロ野球・オリックス担当。99~01年、03年から現在まではゴルフ担当。海外メジャーは、今年マスターズまで男女合わせて17大会を取材。
趣味は競馬、競輪。
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